櫻學舎の高橋です。
今日は少し難し目の内容ですが、光で動く石についてご紹介します。
高校で化学を履修した人は有機化学の講義で「シス型」「トランス型」を勉強しましたよね。
有機化学って、暗記が得意でクイズ感覚で正解できるから好きって人もいるかもしれませんが、勉強していても味気ないなと思うことがあるんじゃないでしょうか?
特にシスートランスに特別愛着を持っている人なんて稀だと思います。
今回ご紹介するのはシスートランスの構造を持つ化合物を応用した、超最先端の材料についてご紹介します。
アゾベンゼンという化合物にはシス体とトランス体の二種類の安定な異性体があります。
名前を聞くと、意外と馴染みがあるかもしれません。
二つのベンゼン環が、アゾ基(-N=N-)でつながっています。
アゾベンゼンのトランス体は紫外線を当てるとシス体へと光異性化(変化)します
一方、シス体に青色の光の可視光を当てるとトランス体へと光異性化します。
これらの異性体が他方の異性体へと変化することを異性間反応と呼びます。
つまりアゾベンゼンの形(トランス体からシス体)とその変化は、外から当てる光で簡単にコントロールできるんですね。
アゾベンゼン分子が光によって形を変える事を紹介しました。
光で形を変えるとはいえ、分子の大きさは一般的にナノメートルの単位で表すほどの大きさです。(1ナノメートル = 10の-9乗メートル)非常に小さくてとても目には見えません。
アゾベンゼンのシスートランスの形を比べてみてもらうとわかりますが、全然形がちがいますよね。
片方は伸びていて、もう一方はコンパクト。
これ程に形の変化が大きいのだから何かに応用できるのではないか?と研究者達は考えます。
実際にこのアイデアですごい材料が作られました。
光で動く”石”です。
想像してみてください。
世の中には直接力を加えないで動くものと言うとなんでしょうか?
重力・磁力・,,,などなどそこまで沢山の種類はありません。
光で動かせるもの、と聞くと「太陽光発電があるじゃん」と思う方もいるかもしれません。
太陽光発電は光エネルギ⇒電気エネルギー⇒○○エネルギーというステップを踏んでエネルギーとして使います。
光で動く石は光エネルギー⇒力学的エネルギーと、光が何かを介さずに直接ものを動かしているんです。
どんな風に作るのかを簡単に説明すると、「数百万層に及ぶ層状鉱物のすべての層間に、アゾベンゼン分子を規則正しく固定する」ことで作ることが出来ます。
イメージで言うとミルフィーユ状の鉱物のそれぞれの層の間を、くまなくアゾベンゼンで満たすといった感じです。
こうすることで層間に固定されたアゾベンゼン分子による形状変化が上下の層間へと伝えることが可能になります。
アゾベンゼン分子を固定化した層を100万層程積み上げた層状鉱物をつくれば、層状鉱物全体の形の変化の大きさはミリメートルのスケールにもなります。
熱や気圧でモノは膨張したり縮んだりする光景はよくありますが、光を当てて伸縮するモノの登場ももうすぐです。
自然界に存在しないものを人間はたくさん作りだしてきました。
電気で動くものはすっかりおなじみですが、光で動くものも将来的に身近になるかもしれまんね。
参考資料:新 材料化学の最前線 未来を創る「化学」の力 (ブルーバックス)