自信をなくした子への声かけ術|成功体験と思い切った断言が子どもを支える

「高校生になったけど、成績が下がるのが怖いんです……」
春、新しい制服に身を包んだばかりのAさんが、涙を浮かべてこう話してくれました。
中学時代から塾に通い、地道に努力を重ねて第一志望の高校に合格した彼女。
周囲から見れば「がんばり屋さんで優秀な子」なのに、なぜこんなにも不安そうなのでしょうか?
実は、こうした「自信のなさ」を抱えている子どもはとても多いのです。
努力してもうまくいかない経験や、周囲との比較、「高校の勉強は難しい」という思い込み……。
そんなとき、大人がかける“たったひと言”が、子どもの未来を大きく変えることもあります。
この記事では、実際の塾現場で起きたエピソードをもとに、「子どもの不安にどう寄り添い、どう自信を引き出すか」を考えていきます。
日々子どもと向き合う保護者の方へ、ぜひ届けたい内容です。
ケース紹介|不安で泣きながらやってきたAさん
この春、高校生になったばかりのAさん。
中学1年生の頃から塾に通い、コツコツと努力を重ねて第一志望の高校に合格しました。
さらに入学後は、上位クラスに配属されるほどの成績をおさめ、誰が見ても順風満帆なスタートです。
…ところが、そんな彼女がある日、教室のドアを開けるなり涙を浮かべて言いました。

「先生、高校生になって成績が上のクラスに入ったのですが、成績が下がるのが怖いんです……」
彼女の不安の根底には、「高校の勉強は急に難しくなる」「成績が落ちたらどうしよう」といった“先取りの不安”がありました。
さらに、「テストで一問間違えただけで焦る」「授業でつまずくと心配になる」といった繊細な心の揺れも見られました。
実はこのとき、Aさんの頭の中には2年前のある会話が残っていたのです。
中学2年生のとき、私がこんな言葉をかけたことを、彼女ははっきり覚えていました。



「高校の勉強はずっと難しくなるから、今から基礎を固めようね!」
この言葉が「高校=難しい=ついていけなくなるかも」というイメージを強く植え付けてしまったのかもしれません。
それでも彼女は、あきらめるどころか、むしろ不安を正直に伝える強さを持っていました。
この涙は「もう無理」という諦めではなく、「なんとかしたい、でも怖い」という前向きなサインだったのです。
このように、不安を抱える子どもの心の中には、過去の記憶や大人の言葉が根強く残っていることがあります。
そして、その不安を乗り越えるカギは、「小さな成功体験」と「未来への信頼の言葉」なのです。
不安を抱える子どもの心理


中学生・高校生にとって、「勉強の不安」はとても身近でリアルな悩みです。
しかし、多くの子どもたちはその不安をうまく言葉にできません。だからこそ、ふとした瞬間に涙が出たり、黙り込んだり、「勉強が嫌い」とだけ言ってしまうのです。
「不安」の正体は「先が見えないこと」
子どもが勉強に対して抱く不安の多くは、まだ起きてもいない未来への恐れです。
- 高校の授業は難しいって聞いたけど、自分にできるのかな?
- もしテストの点数が下がったら、周りに見捨てられるかも……
- クラスの中で自分だけが置いていかれたらどうしよう……
これらはすべて、“今”ではなく“これから”に対する想像が生み出す不安です。
特に、過去に成績が伸び悩んだ経験や、失敗体験がある子ほど、「またダメになるかもしれない」という気持ちが強くなる傾向があります。
「自信がない」とは「根拠がない」ということ
子どもが「自信がない」と口にする時、それは単に「自分にはできない」という思い込みであることが多いのです。
実際には、ちゃんと努力して結果を出してきたにもかかわらず、それを自分の中で“成功”として認識できていないケースがほとんど。
だからこそ、「あなたにはこれまでこんな実績があるんだよ」と誰かが明確に言葉にしてあげることで、ようやく本人も「そうか、自分はできるかもしれない」と思えるようになるのです。
自信を育てる声かけの工夫


子どもが不安を感じているとき、最も効果的なのは「安心」と「根拠ある自信」を与えることです。
そのために、声かけにはちょっとした“工夫”が必要です。
① 成功体験を具体的に思い出させる
「前にもできたんだから大丈夫!」という言葉だけでは、子どもは納得しません。
過去の具体的な成功体験を、数字や内容とともに伝えることで、自信の“根拠”になります。
たとえば、
- 「中2の前期中間テストで、5教科合計が70点アップしたよね」
- 「英単語の小テストで、何度も満点取ってたの覚えてる?」
このように、「どのテストで何点上がったか」「どんな頑張りをしたか」を思い出させてあげましょう。
②「今の君ならできる」と断言する
未来は誰にも見えません。だからこそ、子どもは「できるかどうかわからない」ことに不安を感じます。
そんなときに必要なのは、「きっとできるよ」ではなく、「今の君なら絶対に乗り越えられる!」と断言することです。
これは単なる励ましではなく、「過去に頑張った経験」+「今の状態」を見たうえでの“確信”として伝えることがポイントです。
たった一言の声かけが、子どもの気持ちを大きく支えることがあります。
その子の努力や過去の成果を、本人以上に信じてあげること。
それが、自信という“未来を照らす光”になります。
教育現場から見えること
子どもたちは「できない」のではなく、「不安」なだけ
日々子どもたちと向き合っていると、「学力」や「やる気」の前にまず必要なのは、“安心感”や“自信”だということを痛感します。
勉強ができないのではなく、「できないかもしれない」という不安が先に立ち、行動できなくなっている子が多いのです。
実力よりも「気持ち」が先に崩れる
たとえば、テストで少し間違えただけで「もうダメだ…」と落ち込んでしまう子がいます。
知識や理解力はあるのに、自分の可能性を信じられないまま、「自分は勉強ができない」と思い込んでしまう。
これは、実力の限界ではなく、気持ちの限界が来てしまっているのです。
小さな成功が、子どもの背中を押す
こうした子どもたちに必要なのは、「事実に基づく成功体験」です。
- テストの点数が少し上がった
- 提出物を出せた
- 毎日勉強机に向かえた
たとえ小さなことであっても、それを「ちゃんとできたよね」と指摘してあげることで、子どもは自分の変化に気づきます。
この気づきが、「自分にもできるかもしれない」という感情に変わっていきます。
教育の現場は、子どもたちの「自信の土台」をつくる場所
教室や塾は、単に知識を教える場ではなく、自分の可能性に気づく場でもあります。
そのためには、私たち指導者が「君ならできる」と信じて関わり続けることが重要です。
そして、子どもが不安を口にしたときには、それを跳ね返すのではなく、まず受け止め、寄り添うことが何よりも大切です。
教育現場で見えてくるのは、子どもたちが本来持っている「伸びる力」。
それを引き出す鍵は、自信と安心感の中で学べる環境をつくることにあります。
まとめ|不安を自信に変えるために


子どもが「不安」を抱えるのは、決して悪いことではありません。
それは、「うまくやりたい」「失敗したくない」という前向きな気持ちの裏返しでもあるからです。
しかし、その不安が大きくなりすぎると、自分を信じる力を奪ってしまいます。
「どうせ自分にはできない」「またダメかもしれない」と思い込んでしまうと、せっかくの成長の芽を自ら摘んでしまうことにもなりかねません。
だからこそ、私たち大人ができることは、
- 過去の具体的な成功体験を一緒に振り返ること
- 「君ならできる」と信じて、はっきりと伝えてあげること
- できたことを丁寧に認め、言葉にして伝えること
この3つを意識的に行うことです。
自信とは、誰かに与えられるものではなく、「自分でできた」という実感を積み重ねた先に生まれるものです。
勉強が苦手でも、成績が思うように上がらなくても、小さな一歩を「成長」として見つけてあげる目が、子どもの未来を支える大きな力になります。
子どもたちが「自分はできる」と思えるように。
その第一歩は、不安を受け止め、希望に変えていく対話から始まります。